女はみんな世界チャンピオンさ… | ボクシング&ロック野郎 higege91の夜明けはまだか?

ボクシング&ロック野郎 higege91の夜明けはまだか?

人生の曲がり角に遭遇したボクシング&ロック・マニアhigege91。暇を見つけてはホール通い。ああ、俺は戦っているか!? ああ、俺は俺の求める『俺』に近づいているのか!?

携帯電話が鳴った…。


知り合いの友人からだ。23時…。仕事で静岡まで出掛けていたのでその帰り道だった。東名高速、足柄のSAだ。


友人「よう、どうぉよ?」


僕「あ、亀田の話でしょ?」


友人「わかる?」


その友人は37歳で独身だ。…で、仕事はhigege91と同じ業種、映画作りのプロでボクシング好きだ。


友人「なんだかかわいそうなっちゃったよ、あのR1ダウン喰らった時の亀田の顔…。んで、各Rコーナーに戻ってくる度にドンドンうるうるしてきてるように見えてきてさ…。良く倒されなかったと思ったけど、あれは『強ぇえ…!?』って実感してる顔だったよ…。コーナーに戻ったら戻ったら父ちゃんにビンタされちゃってさ、あれ、見てられなかったよ…。しかし、解説陣も言葉を選びながらで大変そうだったなぁ…。でもWOWOWの浜田さんみたいに『効いてますよ、これはいかんですな、流れを変えないといかんですよ、このRはランダエタの10-9です…』みたいにその都度採点してくれればもっといいのにねぇ…、ってそうもいかないか、亀田の場合…って言うか、ボクシングの世界戦のわけだから全然そうすりゃぁいいのに!!!」


 …ふんふんと聞いていたhigege91だが、その友人、何か別の話をしたそうである。


僕「…で、どうしたの?」


友人「…ん? いやぁ、亀田だけじゃなくてさ、俺もフルラウンド戦ったんだよ…」


僕「…?」


友人「…恋の始まりは、いつだってカラフルなものさ」


僕「…(大丈夫だろうか、この人は!?)」


友人「出会いは今年の初め、仕事で知り合ったんだけど、来たんだよね、ズキューン!!!ってさ」


僕「…ズ、ズキューンと、ですか?」


友人「俺はソープランドに通い続けるようなダメな男さ、もう12年も彼女がいないよ、そんな俺だけど、今回はマジだった。三十路ボクサーのタイトルマッチさ、後のない、負けたら引退の背水の陣さ…」


僕「こ、恋のタイトルマッチ…ですか?」


友人「…仕事を丁寧にこなしながら親密になっていったよ。彼女と一緒に物を作っていった。そう、映画さ、映画自体は『糞』みたいなモンだったけど、俺は楽しかったよ。…で、1Rは敵の間合いを探るジャブで牽制さ、普段はファイタータイプの俺だけど、何しろ最後のタイトルマッチだろ、はやる気持ちを抑えて静かな立ち上がりさ…」


僕「…はぁ」


友人「…で、その映画がクランクアップした時、メールアドレスを交換したんだ。…で、頻繁にメール交換をする間柄になったんだ。序盤は面白おかしく楽しい時が流れたよ。ジャブから手応えのあるワンツーも時々入ってたしね。・・・が、ここで突撃しちゃいけないって思ったんだ。そうして今までも失敗してきたんだ。なんたって最後のタイトルマッチさ…。負けたら終わり…。慎重に、手堅く、確実に攻める必要があったんだ。…で、中盤戦に差し掛かる」


僕「はい(…まいったなぁ)」


友人「…切り出したよ、そろそろ見せ場は要る。判定だろうがKOだろうが流石に3ヶ月も経ってるんだ。インパクトが薄れてからじゃ流れを引き寄せられない…。で、歌舞伎に誘ったよ・・・・」


僕「か、歌舞伎って銀座で見る、あの歌舞伎ですか?」


友人「彼女はそういう賢い女だったのさ…。知性のある女さ…。俺はガードを敢えて下げてカウンター狙いに切り替えたんだ。彼女は見事に乗ってきたよ…。そして、こう言ったのさ、『楽しそうだなぁ…』ってさ…」


僕「…(長いぞ、こりゃぁ…)」


友人「…おれは準備を怠らなかった。何しろ最後のタイトルマッチだからね、歌舞伎だけど桟敷席1席17000円買ったよ、そんで午前の部の興行だったから、その午後の過ごし方もキッチリ計画したんだ。デートの下見も完璧さ。…歌舞伎に満足した彼女を連れて浅草に出て、鰻を食べてから遊覧船に乗って浜松町さ…。夕景を眺めながらたくさん語り合ったよ…、彼女の幼い頃、彼女の好きな色、彼女の好きな映画、彼女の…、う、ううう…」


僕「ど、どうしの?」


友人「いや、ちょっと思い出しちゃっただけさ、デートは計画通りさ、全て順調って言うか、俺の拳にはかなり『手ごたえ』があったよ、顎先にカウンターの右フックが炸裂!!! …とまでは行かなかったけど、少なくともポイントは獲ってたと思う。中盤まではまずまずだった。失ったポイントは6Rを消化して一つか二つだったと思うよ。服も全て新調したさ、靴下からパンツまでさ…。10万円以上使ってたよ…。なにしろ最後のタイトルマッチだからね、悔いが残らないようにしなくちゃ…ってさ。…で、アタックしたよ。KOするなら今だ!!! って思ったね。終盤スタミナがなくなってからじゃぁ遅いからね…」


僕「…で?」


友人「愛してる…って言ったよ。渾身の右クロスさ、タイミングは最高だったよ、夕暮れと夜の間に、俺と彼女だけだった。…で、彼女は言ったんだ。考えさせて…ってね」


僕「ふんふん、で、彼女は何歳だったの?」


友人「…33歳、さすがはベテランだよ、クリンチホールドで逃れられたよ」


僕「…(右クロスは空振りだったってわけか)」


友人「…俺も人生のベテランだしさ、チャンスのタイミングは間違えたかもしれないけど、まずまずの後半戦突入って感じさ。ここは消耗した身体を休ませる必要もあるかな…って感じでアウトボックスさ」


僕「…(あ、あうとぼっくす?)」


友人「…で、メールも遠のいた。でも俺はずっと彼女を思い続けてたさ。…で、また彼女と仕事が一緒になったのさ。これは神様の思し召しだと思ったよ。終盤戦にもう一度大きなチャンスが巡ってきたのさ、俺は彼女と愛をはぐくみながらラストラウンドまで手を出し続けた。判定の可能性が高い、手数で勝負さ、スタミナ無視のゴーゴーファイトさ、いいところを見せたくて必死だったよ。ゴングが打ち鳴らされた、試合終了…、長かった映画のロケもクランクアップさ。…で、その過酷な仕事が終わった時、俺は言ったんだ。『二人きりで打ち上げをしないか?』…」


僕「ふんふん(…なんだか結果は想像できるけど)」


友人「・・・・採点の集計がやけに長いなぁ、この前の亀田みたいだった。俺には自信があったよ、やれるだけやったんだ、悔いはない、俺は死ぬ気で戦った、12R俺に出来ることは全てやった…そんな気持ちだったよ」


僕「・・・・」


友人「…『好きな人がいるんです、もう6年付き合ってます、その人と一緒になる約束をしてるんです』って言われたよ」


僕「…(あーぁ、って言うか、常套句じゃん)」


友人「…リターンマッチも考えたけど、俺も最後のタイトルマッチって決めてたしさ、…う、ううぅ…」


僕「…まだまだですよ、まだ三十路じゃないですか!!!」


友人「ふざけんなぁ、あのデートで使った10万円があればソープランドあと3回行けたんだぞ!!!」


僕「・・・(そりゃぁ負けるわなぁ)」


友人「恋の始まりはいつだってカラフルで、そして、恋の終わりはいつだってモノクロームなのさ…」


僕「…(あーぁ、こりゃフルマークの判定負けだったんだな、思い込みの激しい恋だたんだなぁ…)」


友人「…なぁ、俺思うんだけどさ、女はみんな世界チャンピオンだよ、無敵だよ…」


僕「女はみんな世界チャンピオン…かぁ」


友人「そうさ、手強いよ、亀田は良くやったよ…」


僕「そうですね、亀田は良く戦い切りましたね…」


友人「ああ、良くやったよ、俺、その戦いを見ながら泣いたんだ、あの11R、棒立ちになってからガムシャラにランダエタにしがみ付いてダウンを逃れた時さ、俺もああだった…ってさ」


僕「じゃぁ、亀田の世界王者、認めるんですね?」


友人「…ん?…だから、世界チャンピオンは女たちで、女はみんな世界チャンピオンなのさ…」


僕「…(まぁいいか)」


御愛読感謝


つづく