奇蹟の10回戦、涙の味がする試合…について | ボクシング&ロック野郎 higege91の夜明けはまだか?

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人生の曲がり角に遭遇したボクシング&ロック・マニアhigege91。暇を見つけてはホール通い。ああ、俺は戦っているか!? ああ、俺は俺の求める『俺』に近づいているのか!?

いつかの日本スーパーライト級10回戦の再放送を昨日は観た…


08年9月16日 後楽園ホール


日本スーパーライト級10位 飯田幸司

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日本スーパーライト級11位 伊藤博文



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これは当時の日本ランカー対決で、ヨネクラジムと相模原ヨネクラジムの看板選手による同門対決に近いカードでありました…


ジャブワンツーが鋭く、その軌道と足捌きで距離を巧く操るボクサータイプの伊藤選手と、根性と重いコンビネーションが優れ、まさに、しぶとい強さを発揮するファイタータイプの飯田選手による渋い好カードでありました…


さて、飯田選手といえば、僕が初めてその存在を意識したのは06年7月17日にホールで生観戦したある試合…


現東洋太平洋ウェルター級チャンピオンの佐々木基樹選手との一戦、飯田選手は元日本チャンピオンでもあった佐々木選手にしぶとく食い下がり、なんとスプリットデシジョンとはいえ、勝利を収めたのであります…


当時、佐々木選手は無敗の世界ランカーであったダウディ・バハリを破って世界ランクを奪い、しかし、その次戦でノーランカーだった山岡選手にまさかの引き分け、そして、飯田選手との戦いに臨んでいたわけですが、当然、実績的に不利予想がたっていたのでありますが、ここで金星を得ると、一気に日本タイトルマッチに漕ぎ着けました…


日本スーパーライト級チャンピオンの木村登勇選手に挑むもこれは大差判定負けを喫しますが、しかし、そのしぶとさを発揮し、印象的には国内無敵感漂うチャンピオン木村選手にかなり肉迫した戦いを演じました…


しかし、その後の再起戦は元日本ライト級チャンピオンの伊藤俊介選手にTKO負け、さらに引き分けを挟み、この伊藤博文選手とのランカー対決に挑む…という状況でありました…


つまり、「後のない戦い」…という厳しい立場であったわけであります。


対する伊藤博文選手でありますが、端正なマスクのイケメンボクサーの代表格で、元ホスト…という異色の経歴の持ち主でありますが、前の試合は引き分けでこちらも後のない立場でありました…


テレビ中継に拠れば、「お客さんが涙する試合をしたい」と戦前語っていたようで、非常に熱い感謝に溢れた好漢
でありました…


試合は物凄い内容となったわけですが、その序盤は伊藤選手のワンツーと距離感が優勢となり、早々と飯田選手の左瞼は大福餅のように腫れあがり、垂れ下がってしまった…


が、その後、飯田選手怒涛の根性が徐々に明確になってゆき、距離が縮んだ瞬間に繰り出される左ボディーから始まる重いコンビネーションに伊藤選手が差し込まれて行った…


拮抗した内容ながらも、しかし、綺麗なワンツーが武器の伊藤選手がクリーンヒット数で上回り、見栄え的にやや優勢か…? という流れ… 8Rにはついに飯田選手がロープを背負い、さらに、その両目が塞がりかけてしまいドクターチェックが挟まれた…


飯田選手、かなりの被弾をしていて、そのダメージはかなり蓄積していたようであるが、それを文字通り『気迫』でカバーし、その視界はもはやほとんど失われていたのではないか…?ってほどの状況に陥るも、打って出続けたのであります…


特にその最終盤でありますが、スタミナと手数を爆発させたわけですが、思うに、このような奇蹟的な「爆発」を体現できるボクサーはそうはいない…


圧倒的に深いダメージを負いながらも、最高のパフォーマンスを発揮した飯田選手…


まさに、奇蹟の追い上げ…でありました。


しかし、その追い上げに対して真っ向から迎え撃った伊藤選手の気持ちも強かった… 伊藤選手、無理に打ち合いに応じる必要はなかった… 距離を保ってワンツーを浴びせ続け、そして、足を使って捌けばもっと楽に戦えたようにも見えたのだ…


が、結果的にみれば、この両者にとって危険な距離であえて伊藤選手が放った有効打があったからこそ、後の判定結果が伊藤選手を勝利へと導いたとも言えたのは、なんとも感慨深い…


判定決着…は全て1ポイント差の2-1のスプリットデシジョンで伊藤選手の勝利、激動のランカー対決は終わった…



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中盤までは綺麗な顔をしていた伊藤選手でありましたが、試合終了後は左目が潰れてしまった… 飯田選手の重い右が度々カウンターとなって打ち抜かれていたからだろう…



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飯田選手の左目は序盤2Rには腫れ落ちていた… さらに右目も垂れ下がり、その視界は中盤にはかなり狭くなっていたように思います… 


タイトルマッチだけがボクシングではない…ということを改めて感じさせてくれる名勝負…でした。


テレビ録画中継でもはっきりしていましたが、こういう渋い好カードによるホール興行は観客が少なく、なんだか寂しいことが多い…


が、実際にそのような環境であっても、観客が少なくても、その場に居合わせると、その「漢と漢の戦い」から溢れる燃え盛るオーラに身も心も溶かされてしまうような熱狂を味わうことが出来るのであります…


勝者と敗者の明暗がくっきりと線引きされるも、しかし、それは、あくまで戦績数字上のことであり、脳髄に刻み込まれた、そのいつかの熱狂は決して色褪せることはないのだ…


さて、この試合で最高の勝利を得た伊藤博文選手であったが、次の試合で連続となるランカー対決に挑み、壮絶に散ってしまった…


日本スーパーライト級上位ランカーの亀海選手に真っ向勝負を挑み、その日本屈指のハードパンチをまともに浴び続け、それでも、それでも打って出続けた結果、倒されてしまったわけであります…


伊藤選手、飯田選手のガッツを受け継いだような果敢ファイトであった…


この試合も泣ける試合であった…


それはこの飯田戦からの延長線上に存在しているから、なおさら、泣けたわけであります…


ボクシングを深く深く味わうには、このような選手の進化と過程、その苦戦と喜びを一緒に味わっておくと、その感動は数十倍にも跳ね上がるとは以前から書いていますが、そんなことを改めて感じた次第であります…


新聞にはその試合結果が小さくしか載らないようなホール興行…でありますが、しかし、その内容は熱くて、涙の味がするほどの味わい深さがあるのであります…


しかし、この試合の最終盤、飯田選手の気迫の左ボディーから右クロス… 凄かった… 破れたものの、奇蹟的なコンビネーションを放ち続けた…


完全燃焼と敗戦…


と呟いてみて、また、涙の味を思い出す…


御愛読感謝


つづく