ある二つのKO劇に見たボクシングの切実…について | ボクシング&ロック野郎 higege91の夜明けはまだか?

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人生の曲がり角に遭遇したボクシング&ロック・マニアhigege91。暇を見つけてはホール通い。ああ、俺は戦っているか!? ああ、俺は俺の求める『俺』に近づいているのか!?

最近、印象に残った試合を振り返る…


それはフライ級のある2試合…


日本フライ級1位 小松則幸 

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タイ同級 ラタナポン・ソーウォラピン 


65戦のキャリアを誇るタイ選手は35歳… 一方の小松選手は世界挑戦も果たした元東洋太平洋チャンピオンで、トラッシュ中沼選手や内藤大助選手と激闘を演じたタフなボクサー…


試合開始直後、超ベテランのラタナポンはジワジワとプレスを掛け、小松選手が警戒しながらサークリングする展開…


ラタナポン、両腕を広げてさぁこい…とアピール…


と、不意にコーナーを追い込まれた小松選手、ラタナポンの右、左、右…と、コンビネーションをまともに喰い膝が折れる…が、しがみついてダウンを拒否…


レフェリーが二人を分かつ…


再開後、小松選手が右を振りかぶった瞬間、そのがら空きになった顎先にラタナポンの左ストレートがカウンターで突き刺さる…


小松選手、尻餅をつくダウン… 立ち上がってノーダメージをアピールするも、しかし、効いている… 開始早々、実質2度のダウンを喫したも同然の立ち上がり…


再開後、小松選手、ロープを背負わされると、ラタナポンの右を再び喰い、ロープに腰を沈めた…と、ここでレフェリーが割って入って試合ストップ、1RTKO負けとなってしまった…


打たれても打たれても決して引かないボクシングで人気を博してきた小松選手であるが、しかし、あのポンサクレックに壮絶にKOされ、そこから這い上がるもあの内藤大助選手にこれまた壮絶に倒されてきた…


かつての無類のタフネスはもはや見る影を失ってしまった…


最近も微妙な内容の試合が続いていたのは確かだ…


しかし、かつての気迫と根性とタフネスが影を潜めてしまった今、なんとも言えない切なさがただよう敗戦となってしまった…


その年齢は29歳であるが、しかし、かなり多くの犠牲を払って勝ち続けてきた強さが武器であっただけに、このあっけない敗戦は特に胸に響くものがある…


強かった頃の小松選手を知らない方には、このあっけない敗戦は、もしかしたらすぐに忘れられてしまうただの一試合…になってしまうかもしれない。


しかし、僕には重く響き渡る辛い内容の一試合となった…


1R 2:16 TKOで勝者ラタナポン・ソーウォラピン…


昔ならば…なんて語ることほど残酷なことはないかもしれない… 


プロボクサーとは、目に見えない犠牲と引き換えに栄光を手に入れるしか方法のない厳しい職業であります…


かつて小松選手の腰にまかれた東洋太平洋チャンピオンベルトには、これでもかこれでもか…と打ち込まれてもなお、踏ん張り続けた「ど根性」が刻まれていたわけですが、その栄光の代償は、深刻なダメージの蓄積と、ある種の打たれ脆さとなって、今の彼の前に立ち塞がっているように僕には見えるわけです…


「かつて」…と「今」…とをどうしても比べてしまうし、もしかしたら、それは選手自身がもっとも感じていて、しかし、そのジレンマとも戦いながらリングに上がる…のだとするならば、その切実さは半端ではない…と痛切に感じた一試合でありました。


で、非常に気になったもう一つのフライ級8回戦ですが…


日本フライ級7位 金城智哉

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同級 殿村雅史


分厚いプレッシャーと馬力が持ち味の金城選手は日本フライ級暫定王座決定戦にも出場した実力者であり、かつて全日本新人王も獲得した未来の日本チャンピオン候補… 


対するは殿村選手はサウスポーのA級3戦目で初のランカー挑戦となる選手で、新人王は2度挑戦するも途中で敗れてしまった…と解説は語っていました…


その序盤、積極的に攻め込んだのは殿村選手であった… 挑戦者としての意気込みに溢れる思い切りの良い振りの前に、その底力では負けないはずの金城選手がやや劣勢感を残す立ち上がり…


が、試合が2R、3R…と進むうちにその思い切りの良いパワフルなアグレッシブが目立ってきた金城選手…


コンビネーションのまとめ打ちも目立ち、殿村選手はその気負いからかスタミナをやや吐き出しすぎた印象が残った…


で、僕は3Rが終わった時点で、これはじりじりと金城選手が押し切るかな…?という印象で試合を眺めていました…


そして、なんと言っても、いつかの日本暫定王座決定戦における金城選手のガムシャラファイトと闘魂の爆発を知っていたから、これに火がついたら善戦している殿村選手ではあるが、最終盤にはまとめてポイントも攫われてしまうのではないか…?という認識でありました…


が、4R開始直後、勢いが増してきた金城選手、大きく振りかぶった左フックの内側、その一瞬に打ち抜かれたのは殿村選手のコンパクトな右フックでありました…


そのカウンターの右フックで顎先を打ち抜かれた金城選手は、放ちかけていた左フックに自ら引っ張られるようにしてキャンバスに這いつくばったのだ…


そのまま身体をゴロンと反転させると、その鍛え抜かれ身体は柔らかいゴムのような感触でグニャリと折れた…


カウントが進む…


金城選手、もう完全に肉体と精神が引き裂かれるほどのダメージを負っていた… なんとか立ち上がろうともがき苦しむも、無情にもカウントはテンまで数えられた…


4R 00:40 KOで勝者殿村雅史!!!


殿村選手のそれは、まさにここしかない…という芸術的なタイミングで打ち抜かれたパンチだった…


それは強打…ではなくて、まさに、タイミングと命中した場所が絶妙であったカウンターKOパンチで、サックリと金城選手の肉体と精神を分断する剃刀のようなワンパンチでありました…


色白の坊主刈りの殿村選手、これは大金星でありました…


熾烈なランカーとノーランカーによる対決でありました…


追う者と追われる者…


その勝敗を分かつものは一体なんなのだろう…?


「相性」…と簡単に呼ぶのは嫌だ…


大きな抵抗感を感じる… 


あまりにも切な過ぎる、その青春が交錯するプロボクシングのリング…


きっと殿村選手は今よりも3~4倍強くなるだろう… そして、敗れた金城選手であるが、這い上がって復活を果たしたならば、もーっと強くなるだろう…


小松選手もこういう苦節を経て東洋太平洋チャンピオンになったのだ…


これからの選手と、もう後のない選手の、それぞれのKO劇についてちょっと書いてみましたが、どちらも本当に切なくて、そして、胸が熱くなる戦いでありました…


御愛読感謝


つづく