2006年5月1日 「ポンサクレック×中広」 WBC世界フライ級タイトルマッチ | ボクシング&ロック野郎 higege91の夜明けはまだか?

ボクシング&ロック野郎 higege91の夜明けはまだか?

人生の曲がり角に遭遇したボクシング&ロック・マニアhigege91。暇を見つけてはホール通い。ああ、俺は戦っているか!? ああ、俺は俺の求める『俺』に近づいているのか!?

現日本スーパーフライ級チャンピオンの中広大悟選手が拳の怪我が理由で、チャンピオンカーニバル出場が叶わず、暫定王座が設けられると聞いた…


広島出身の、地元のボクシングジム所属の日本チャンピオンであるが、その存在感はチャンピオンになる前から中央でも光り輝いていた…


そのマッチメイクの積極性は実に潔いものであり、さらにその実力センスは日本チャンピオン以上だ…などと高い評価を受け続けてもいた…


全日本新人王獲得、当時大注目だった高橋巧選手との無敗対決、日本フライ級タイトルマッチ出場の内藤大助戦…と、かねてより敵地に乗り込んでは名前を売り、その実力を惜しみなく発揮し続けてきたのですが、今日、改めて取り上げさせてもらおうと思うのは、そんな中広選手が日本チャンピオンだった内藤大助選手にスプリットデシジョンの僅差判定負けに泣いた直後、ふいに訪れた「世界タイトルマッチ」に出場した戦いであります…


当時のチャンピオンは日本でもお馴染み、タイのポンサクレック・ウォンジョンカムで、この時点ですでに13度の王座防衛を達成中であった…


その防衛相手の中には内藤大助選手や、本田秀伸選手や、小松則之選手、トラッシュ中沼選手…といった日本屈指のボクサーたちが含まれていましたね… (その後、清水智信選手や升田貴久選手なども退けています)


日本人キラー…とは、良く聞く表現ですが、まさに、連続防衛記録があてどなく伸び続けていた頃でありました…


さて、しかし、この中広選手の挑戦は万人から好意的に受け入れられるものではなかった…


前の日本タイトルマッチ、内藤戦は僅差スプリットとはいえ敗戦を喫していたし、にもかかわらず、敵地とはいえ世界戦出場という知らせに、多くのマニアは「安牌」として選ばれたな…という感触を得、また、せっかくだからの「記念挑戦」だろ…的な見方も多かったはずであります…


また、この当時のポンサクレックは確かに強かったが、確か暫定チャンピオンにホルヘ・アルセが存在していたにもかかわらず、それぞれが王座統一を果たすことなく「並立」しながら存在していたため、このタイトルそのものへの見方も多少冷えてもいたような気もする…


しかし、世界タイトルマッチであることに変わりはない…


敵地挑戦で、チャンピオンは連続13度防衛中のポンサクレック…


穴チャンピオンであろうはずもない…


勝てば文句無しの大快挙であります…


そんな背景を思い起こしつつ、振り返ってみたい…と思います。


2006年5月1日 タイ バンコク開催


WBC世界フライ級タイトルマッチ


チャンピオン ポンサクレック・ウォンジョンカム

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挑戦者 中広大悟




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1R サウスポーのチャンピオンに対し、オーソドックスの中広はフットワークを駆使しながらジャブを刺し込み、様子を伺う… ポンサクレックはそんな中広に対して素早く踏み込むと左ストレートを打ち抜く!!! 野外リングから観客の歓声が上がる!!! ポンサクレックはその左を上下に散らしながら積極的に打って出る!!! 挑戦者の中広、思い切ってワンツーを打ち込むが浅い… ポンサクレックの積極性と的確が印象的な立ち上がり… ポンサクレック10-9



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2R 確かに、優位なのはチャンピオンのポンサクレックだが、しかし、挑戦者の中広もまた積極的であった… ただ、むざむざと記念のために敵地で世界戦を戦っているわけではない… が、ポンサクレックの左ストレートを顔面に喰って後退、コーナーに詰まったところで右ボディーを貫かれる!!! 中広の打ち終わりに繰り出されるポンサクレックの必殺パンチ、右アッパーが中広の顎先を掠める… 危ない… ポンサクレックの左ストレートが放たれるたびに観客の歓声が轟く… 中広、押されている… 



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っと、距離が詰まった局面、中広が左を打ち込むのと同時に飛び込んできたポンサクレックの左がカウンターとなって中広の顔面を捕らえる!!!さらにそれに続く恐怖の右アッパーが繰り出され、中広がコーナーに詰まった!!!


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追撃の右ボディーフック連打!!! これが挑戦者の脇腹を思い切り抉るっ…!!! 



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痛恨のダウン!!! ポンサクレックの「詰め」であるが、流石に鋭い… 中広、なんとか立ち上がった… 再開直後にゴング…  ポンサクレック10-8 ※この時のダウン、腹よりも左カウンターで激しく右目を痛め、これが堪えようが無かったようであります…


3R ポンサクレックが倒し来た… その凄まじきコンビネーションが中広に襲い掛かる… 右、左、右…と、そのサウスポースタイルから繰り出されるパンチは急所を掠っただけで倒されてしまいそうなほどのエネルギーに満ちている… 観客の歓声がそんなチャンピオンのコンビネーションに合わせて轟き続ける!! 右、左、右…に合わせて、ワァ、ワァ、ワァ…!!! である… 挑戦者はそんな鬼気迫るチャンピオンの強打の隙間に得意の左フックを放つが、それは空を切り、あるいは、チャンピオンの高く掲げられたガードの上からしか当たることはない… 苦しい… 倒されるっ… っていうか、これ、もう絶体絶命!!! ポンサクレック10-9


4R 長い… 先はまだまだ全然長い… ポンサクレックの左がまっすぐ打ち抜かれる度、後退させられる中広…が、しかし、それでもやれる限りの「抵抗」を続ける!!! ロープを背負わされ、上下左右からの強打にさらされながらも、しかし、その僅かな「隙間」に鋭いパンチを捻じ込もうと機をうかがう… 確かに圧倒的劣勢の流れは変わらない…が、しかし、その「抵抗」が胸に迫ってくる… ポンサクレック10-9


5R 少し距離を保って中間距離で戦いたい中広と、それを踏み越えて左強打を捻じ込みたいポンサクレック… と、ここで中広の距離感が保たれる時間帯が増え始める… 以前としてポンサクレックの強打が有効打として評価を受けそうなのだが、中広のやや遠距離気味の右の命中率が上がってきた… ポンサクレックの打ち疲れも少しあったか…? ここは互角の10-10とする… 


6R 挑戦者、中広大悟の胸に去来していたものはなんであろうか…? 



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---これが「世界レベル」というものか…?なんとチャンピオンは強いんだろう… こんなにも強いものなのか…? 


などと、僕は勝手に妄想する… 挑戦者のパンチは依然として鋭く、そのキレるパンチがチャンピオンの顔面を捕らえる場面もあるのだが、しかし、それが命中した次の瞬間、挑戦者は下がらされてしまう… つまり、チャンピオンは全く怯む気配を見せないのである… そして、倍返しの強烈コンビネーションを放ってくるわけである… 


そんな戦いが続いている…にもかかわらず、挑戦者の身体はよりキビキビと動き続け、反応速度も上がってゆく… どういうわけか、そんな印象を受ける… 明らかに自分より数段実力が格上の、連続防衛13度達成中の屈強なるチャンピオンの僅かな隙を探しながら、挑戦者の動きは劣勢の中にあって、未だかつて発揮したことのない新たな実力の開花を見せている… その証こそは、チャンピオンのこれだけの猛攻を浴びてもなお、カウンターを狙い、距離を保ち、そして、倒されずに立ち続けていること、そのものではないか…? しかし、ポイントはポンサレック10-9


7R 有効打で上回ったのはポンサクレック… しかし、中広は相変わらず強気の攻めを発揮… 逆を言えば、気を抜けばその瞬間倒されてしまうのかもしれない… ポンサクレック10-9


8R 攻勢を奪ったのはポンサクレック… が、中広の右も単発だが正面から命中… これが、ちょっと嬉しい…ポンサクレック10-9


9R ポンサクレックの左が中広のガードを割って突き刺さり、時にロープを背負わせて右ボディーを捻じ込む… 優位なのはポンサクレック… が、挑戦者は勇敢に得意の左フックを放ち、その足は動き続けている… ポンサクレック10-9


10R 中広の左瞼が切れている… 度々バッティングが起こっているようだが、それが理由か? ポンサクレックの攻勢毎に歓喜の悲鳴を上げる観客… そして、それに応える意味でも倒したいポンサクレック… しかし、淡々と挑戦者は戦い続ける…  確かに、窮地は毎ラウンド訪れている… が、挑戦者は「倒されない」… 日本フライ級屈指のテクニックとセンスを兼ね備えたボクサーとしての評価は揺るがないものがあったが、話が「世界レベル」となればそれが「今」通用するとは誰にも言えないし、また、実際「通じないだろう」という、そのような評価の方が多かった覚えもある… が、しかし、中広は倒されずに黙々と戦い続ける… あの2Rのダウンシーンを見て、まさか、このように終盤まで試合がもつれようとは会場の観客の多くが想像していなかったに違いないし、チャンピオンも恐らくはそうであったはずで、そして、挑戦者もまた、同じ気持ちで戦っていたのではなかったか…? ポンサクレック10-9


11R ポンサクレックの「頭突きアッパー」が中広の顎を抉る!!! しかし、中広は差し出されたポンサクレックのグローブに自分のグローブを合わせ、そして、淡々と試合は再開される… 非常にテクニカルな攻防が繰り広げられ続ける… チャンピオン優位は変わらないが、しかし、挑戦者の「勇敢」が試合の緊張感を維持し続ける… ポンサクレック10-9


12R 挑戦者は頭が当たる度、律儀にお辞儀をして試合再開に臨む… そして、延々たる劣性に飲み込まれながらも、しかし、自分の持ちうるパンチを放ち続けた… ポンサクレックの左強打、そして、右アッパーに右ボディーブローが有効… 


ゴングが打ち鳴らされた…


チャンピオン、ポンサクレックの「大差判定勝利」は動かない…


が、最後まで倒されることを拒み続け、その動きは最後の1秒まで鋭さを維持した挑戦者の戦いぶりは、「日本屈指」という評価が相応しい…とも感じた。


が、しかし、それが必ずしも「世界レベル」と言えないという現実を露呈した結果でもあった…


公式の採点… 110-119、107-120、107-120… 



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3-0のユナニマスデシジョンで、勝者、ポンサクレック・ウォンジョンカム!!! V14達成!!!



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さて、このタイトルマッチでありますが、遡ることすでに4年前となるわけですが、現在、中広選手は階級を一つ上げてスーパーフライ級の日本チャンピオンとなり、3度の防衛を達成していますが、残念なことに、拳の怪我をして戦線離脱、暫定王座が王座決定戦により設置される模様…


また、ここ2戦の防衛戦がそれぞれ「僅差」と「ドロー」という内容が続いていたたため、そのモチベーションを危惧する声もある…


「世界」を体感しているだけに、その「理想と現実」の間での苦悶が増している…なんて声も聞いたこともある。


地元広島で日本王座を延々と防衛し続けてゆくことへの不満と恐怖が芽生えているかもしれない…


地方発の選手としては、中広選手の活躍はかなりの成功例として映りますが、しかし、よくよく考えてみると、やはり、未だに厳しいですよねぇ…


目標である「世界タイトルマッチ」とは、あまりにも漠然としているし、これが具体的な話になるには政治力や資金力が絶対必須条件であることは間違いない…


さて、中広選手所属の広島三栄ジムでありますが、65歳の新谷会長、本業の看板業を営みながらジムを開いて資金難と戦いながら必死に運営し続けてきた…なんていう背景を、当時のNHKのドキュメント番組を見て知った…



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広島から世界チャンピオンを…


ジムを開いて38年、ついに世界へ届きそうな「逸材」が現れた…と当時の番組は語っている。


65歳の、ボクシング狂の、夢…


中広選手、初めてのタイトルマッチ、あの内藤大助選手との日本王座戦は「1-2」のスプリットデシジョンで破れたわけでありますが、この採点を聞いた直後、リングの上、青コーナーでグローブの紐を切りながら、新谷会長は「38年越しの夢の挫折」を胸にしまって、「広島の期待」の、才能の塊、中広選手に向かってこう囁いた…


---泣くな、やるだけのことやったんじゃっ!!!


この敗戦の直後、中広選手はボクシングをやめようと考えたこともあったが、しかし、自分ひとりで戦っているわけではない…との思いから、さらに一度期待を裏切ってしまったという後悔の一念から再起を決意、そして、驚くべきことに、その再起戦が世界タイトルマッチというビックチャンスに恵まれたけでありますが、さて、改めて、ポンサクレック戦を振り返る…


2R、強烈なる左カウンターを浴び、さらに猛烈なる右ボディーフック連打を浴びて蹲ったにもかかわらず、それでも立ち上がって最後まで戦い通せたのは、そのような中広選手の「意地と感謝」が背景にあったことはいうまでもない…


中広選手、僅か1ヶ月の準備期間でポンサクレック戦に臨んだわけだが、結果としての大差判定負けとは別に、より顕微鏡的にこのタイトルマッチを見つめてみれば、その「密度の濃さ」は充分感動的であるし、そして、非常に見応えのあるものになっている…


あのポンサクレック戦の惨敗直後の中広選手の声…


---強かったです 完敗ですわ (もう一度戦いたいですか?) もっと修行せんと無理ですわ これは…


あれから4年の歳月が流れた…


中広選手はその後も地方発の選手として敵地東京に乗り込んではハードマッチメークを続け、ついに日本チャンピオンになった…


しかし、今、怪我に泣いている…


心は泣いていないか…?


その心は、本当に大丈夫か…?


懐かし映像を観ながら、そんなことを思う…


御愛読感謝


つづく