1993年6月23日 後楽園ホール
WBA世界ジュニアウェルター級タイトルマッチ
チャンピオン
ファン・マルチン・コッジ 61W36KO2L2D
×
挑戦者7位 吉野弘幸 24W18KO4L1D
なんというか、一昔前の「世界挑戦者」って、凄く『説得力』があったなぁ…って感じる瞬間が最近は多いような気がする…
あいつが挑んでダメならしょうがないさ、それだけチャンピオンが強かったってことさ…
そんな風に、どこかさっぱりと割り切れるというか、ある種の「納得感」というか、そんな感慨深さっていうのは、やはり、一昔前の世界タイトルマッチには存在していたような気がする…
これは気のせいか?
「世界挑戦資格」…なんて言葉がボクシングマニア衆の間で行き交っている時点で、やはり、「世界」って言葉の意味や重さは変わってきてしまったのはどうやら確かだ…
アルゼンチンの名チャンピオンに挑んだのは驚異の必殺左フックを持つ、当時の連続14度防衛の日本ウェルター級チャンピオン、吉野選手…
どの本で読んだか忘れてしまったのだけれど、吉野選手のトレードマークでもある日本人離れした必殺左フック、それは当時アルバイトしていたラーメン店で毎日使っていた、出前の「オカモチ」によって鍛え上げられたため、人呼んで「オカモチ・フック」なんて呼ばれて愛されてもいた…なんて読んだ覚えがある。
その左フックを武器に、当時12連続KOなんていう記録も打ち立てた吉野選手、階級を一つ下げてついに念願の世界王座初挑戦を迎えた…
日本の強打者を迎え撃つアルゼンチンのチャンピオン、コッジは同王座2度目の戴冠を果たし、そして、これが2度目の防衛戦にあたる、驚異の「鞭」の如き左ストレートが武器の強打のテクニシャン…
かつて、この王座を獲得した時は4度防衛(平仲選手撃破を含む)を果たしていたわけですね…
コッジ→ガルサ→ロサリオ→平仲→イースト→コッジ…
沖縄の豪腕、平仲選手を経由した同タイトルだけに、日本のファンにも馴染み深いものがありますねぇ…
コッジ、一度タイトルを失って再起して、16連勝中だそうで、この頃のチャンピオンってのはバンバンとノンタイトル戦を挟むんですよねぇ…
凄いですねぇ…
当時の解説はこのお二人…
平仲さん、イタリアの地でこのコッジに挑戦してダウンを奪うも判定負けした経験がありましたね…
1R 白いトランクスのチャンピオン・コッジはサウスポースタイル、一方の黒いトランクスの挑戦者・吉野はオーソドックススタイル… 両者、距離の探りあい… パンチの届く位置に吉野が入った途端、コッジ、大きく右をスイング!!! これは破壊力ありそう…
と、コッジの右をダッキングしてかわした吉野、必殺の「オカモチフック」を早速当てた!!! やや浅くともコッジは思わず下がる… 会場が大きくどよめくっ!!!
---チャンピオンはビックリしてますよ、驚いてますよ、吉野の左に!!! (当時の実況解説)
しかし、チャンピオンは冷静だ… 吉野をじっくり見極めんと、隙をうかがいながら右リードを丁寧に放つ… 吉野、思い切って左右をフルスイング!!! コッジにロープを背負わせる!!! コッジ、するりと抜け出す…が、吉野はそれを追いかけて左右ボディー連打!!! コッジ、背を丸めて防戦!!! コッジ、怒りの導火線に火がついたか? ゴング間際、大きく振りかぶって右を打ち下ろした!!! が、これは当たらない… 吉野、先ずは幸先の良いスタート…吉野10-9
2R 両者、距離の探りあい、緊迫したつばぜり合い… とチャンピオンが長い左ボディーストレートを吉野の腹に打ち込む!!! 吉野、これを受けて「効きわせん!!もっと打って来い!!」と拳を突き上げる!! どよめく場内、物凄い緊張感!!! 吉野、思い切って飛び込むタイミングを探すが、中間距離は鋭いジャブを持っているコッジの距離だ… その懐近くへ潜り込むも、しかし、いなされる… コッジの右リード、左ボディーが有効… コッジ10-9
3R 吉野、思い切り良く左ボディーを飛び込みながら打ち込み、続けて左フックをコッジの顔面めがけて捻じ込む!!! …が、浅い!! しかし、もっと距離を潰して戦いたい!!! っと、コッジにロープを背負わせて得意の左ボディーフック連打!!! どうだ、効いてるか!? コッジ、飄々とした表情でロープ際から抜け出す… 効いてないか?
が、吉野は再びコッジにロープを背負わせると、左ボディーから左フックを顔面に捻じ込む!!! 入った!!! どよめく場内!!! 吉野10-9
4R これまで、迎撃体制のコッジに向かって吉野が距離を潰してゆく展開であったのだが、このラウンドに入ってチャンピオン・コッジが「受け」のボクシングを捨てて来た… 鋭い右リードを放ち、自分から挑戦者を崩そうという好戦的スタイルにシフトチェンジ…
コッジ、その重そうな右をズバズバと吉野の顔面目掛けて打ち込み始めた!!! 吉野、この好戦的に変貌したチャンピオンに対して思い切りの良い必殺の左フックで迎撃するも、これ、大振り… 見切られてる… 当たってもガードの上からだ… コッジの右に続く左ボディーアッパーが吉野の腹に抉りこまれた!!!
ぐえぇぇ…!!!
モロに入った!!!
一発、二発…と左ボディーアッパーがめり込まれる!!! 吉野、堪らず下がった…!!! 吉野、鼻と口から鮮血が溢れた… さっきの左アッパーが、思いっきり入ってたということか…? コッジ10-9
5R 手応えを掴んだチャンピオン、さらに好戦的に鋭く重い右リードを多用してくる… 挑戦者は大胆なる「オカモチフック」を放つが、しかし、これは虚空を裂くだけに終わる…
コッジ、軽く右を突き出し、吉野の左フックを誘うと、そこへ左ストレートを真正面からカウンターで叩き込んだ!!!
ベキッ!!!
吉野、堪らず腰から崩れ落ちたーっ!!!
ダウン!!!
吉野、なんとか立ち上がるも、ダメージがありありと感じられる…
厳しいっ…!!!
再開後、チャンピオンコッジは一気に止めを刺そうと追撃!!! 吉野、無我夢中で必殺の左フック!!! が、当たらない… あぁ、自らの身体を支えきれない、よろける、そこへチャンピオンのショートブローが当たったか!? 2度目のダウン…!!!
吉野、再び立ち上がるも、しかし、足に来ている… あぁ、もう顔面は鮮血に染まっている!! 吉野、チャンピオンの猛攻を辛うじてクリンチで凌ぐ…
そして、無我夢中の左フック!!! だめだっ、空振り!!! また届かない!!!
チャンピオンの右が吉野の顔面を抉る!!!
ワン、ツー!!!
ビシィ!!!
吉野の顎先にとどめの左ストレートが打ちぬかれた!!!
挑戦者、為すすべなく、背中からマットに倒れこんだ…
5RKOでチャンピオン・コッジ、2度目の防衛成功!!!
豪快に3度倒されてKO負けとなってしまった吉野選手…
しかし、吉野選手はこの敗戦の後も国内のリングで素晴らしい戦いをたくさん見せてくれましたねぇ…
東洋太平洋ウェルター級王座を獲得し、さらに、日本スーパーウェルター級王座も獲得、日本王座2階級制覇の偉業を達成、そして、ボクシングファンの脳髄に刻まれることとなる、伝説の一戦、後のクレイジー・キム選手との激闘が生まれるのですね…
日本スーパーウェルター級タイトルマッチ吉野弘幸×金山俊治YOUTUBE
これ、動画見つけたので貼っておきますが、凄い試合ですよねぇ…
YOUTUBEだと最終Rしか観られないのですが、これ、倒し倒されの壮絶10回戦なんですよねぇ…
吉野選手の「左フック」…
本当に破壊力抜群でしたが、これ、多くのボクシングファンの心をもたくさんぶち抜き続けてきたのですねぇ…
さて、やっぱり強かったコッジですが、この吉野戦の後、再び来日してますが、これ、当時無敗の日本ライト級チャンピオン、坂本博之選手とのノンタイトル10回戦を戦ったのですよね…
物凄いマッチメークですよねぇ…
で、坂本選手、痛烈なるダウンを浴びてメロメロにされちゃいましたが、しかし、最後まで倒れずに踏ん張りとおしましたが、これ、痛恨の初黒星となりましたねぇ…
そんなこんなで、余計、このチャンピオンは思い出深い…
しかし、やはり、一昔前の世界タイトルマッチって、チャンピオンも挑戦者も、やっぱり、その「凄さ」や「強さ」、そして、「凄まじさ」の説得力が滲み出ていたなぁ…
って、ついつい思っちゃうのですが、みなさんはいかがであろうか?
御愛読感謝
つづく