2010 6 29 ザ グレイテストボクシング
東洋太平洋スーパーウェルター級タイトルマッチ
チャンピオン チャーリー太田 13W10KO1L1D
×
挑戦者1位 キング・ダビッドソン 12W6KO無敗
昨晩、後楽園ホールで行われた東洋太平洋スーパーウェルター級タイトルマッチは、チャンピオンのチャーリー太田選手が無敗の世界ランカーデビッドソンを「2-1」のスプリットデシジョンで破って初防衛を成功させました…
その立ち上がりのR1、サウスポー構えの挑戦者ダビッドソン、へその位置から繰り出すフリッカージャブと鋭いロング右ボディーフックの冴えと音に場内はどよめく…
そのパンチの軌道と鋭さに観客は息を飲んだ…
これ、アマチュア仕込みのテクニシャンタイプの触れ込みに嘘はなかった、チャンピオンには申し訳ないが、その武器がパワー一途な印象があるだけに、相性としては最悪、スピードテクニックで劣っているのは明白、これは「倒される」…そんな負の予感が頭を巡った立ち上がり、挑戦者ダビッドソンの右フックが命中、チャンピオンのチャーリーは脆くもひざから崩れ落ちた…
残り20秒あまり…
なんとか立ち上がるも苦しい展開、ダメージはやや深そうだ…
が、ダビッドソンの猛追はゴングよって寸断されチャーリーは辛うじて生き残る…も、しかし、このままではKO負け必至の展開か? やはりテクニシャンタイプは鬼門だと思ったんだよなぁ…だなどと、僕は2Fバルコニーで歯軋りしていた…
ところが、2R以降は想像もできない展開が待っていた…
チャーリーはダビッドソンの鋭いブローの被弾を省みず、両手ぶらりのノーガード変則戦法から不意打ちのようなパンチを打ち込み、そうかと思えばガードを高く掲げて覗き見スタイルで距離を潰すと接近戦から鋭いアッパーを突き上げるという頭脳作戦に打って出る…
無敗の挑戦者、このつかみ所のなさに手を焼き始め、次第に精彩を欠いてゆき、チャーリーの右クロスをまともに浴びて鼻から出血、目の色が変わり始めた…
---勝機が見えた!!
テクニックとスキルの比較をしてしまうと、素人の僕の目にも劣勢必至と見えた立ち上がりであったが、しかし、チャーリーの「チャンピオンの意地」がKO負けを恐れぬノーガードの変則強打戦法を繰り出させ、次第にリング上は「心の消耗戦」の様相を呈し、ここで僅かに上回ったのはチャンピオンのチャーリーであり、その強打の蓄積の方がスマートなダビッドソンよりもポイントを奪ったように思えました…
僕の採点では「116-114」でチャーリー太田選手の初防衛成功…
公式の採点は「115-114」「117-110」「118-109」の『2-1』のスプリットデシジョンでチャーリー太田の初防衛成功となりましたね…
すみません、チャーリー太田選手、僕は1Rのあのダウンシーンを見た瞬間、このタイトルマッチの勝敗は決まった…と諦めてしまいました。
が、あなたの不屈と勇気はまさしく「チャンピオンの矜持」は驚くべき崇高さで発揮され、それが挑戦者のテクニックを打ち破ったわけですが、その強さに改めて敬意を表させていただきたい…
この不屈こそ、チャンピオンの誇りである…
素晴らしい初防衛成功でありました…
さて、この夜の僕のもう一つのお楽しみは、セミファイナルであります。
日本スーパーウェルター級挑戦者決定戦
…と銘打たれた8回戦は、以下の二人のボクサーによって行われた。
日本王座3階級制覇者
日本2位 湯場忠志 36W27KO5L2D
×
日本6位 西禄朋 7W3KO6L1D
先の東洋太平洋チャンピオンのチャーリー太田選手が現在同時に保持する日本スーパーウェルター級王座に挑む挑戦者を決定するこのセミファイナルでありますが、前人未到の日本王座「4階級制覇」を目指す湯場選手がどのような「勝ち方」をするのか…? という見方が大多数でありましたが、僕の中ではちょっと見方が違っていた…
それというのも…
先日読み終えたばかりの、西選手所属の川崎新田ジム会長の、元東洋太平洋スーパーバンタム級チャンピオンの新田渉世氏の著作「リングが教室。」に登場するのがこの西選手で、その武勇伝と心の葛藤を読み終えていたばかりであっただけに、個人的には少しばかり他人とは思えない気持ちでこの試合を向かえていたわけですね…
その戦績を比較しただけでもお分かりのように、天と地ほどの実績の「差」が開いている…ということは西選手にも当然理解している。
ベテランにして幾つもの大舞台を踏んできた湯場選手にしてみれば、この一戦は「通過点」と言ったら失礼かもしれないが、しかし、事実としてそのような位置づけであるはずで、ここで躓くことなど微塵も考えてはいないはずであるし、そのような準備もしてきたはず…
が、一方の西選手にしてみれば、この試合こそがそのボクサー人生についに訪れた晴れの大舞台であり、名のある日本で有名なボクサーとの対戦であり、位置づけとしては、『タイトルマッチ』とそうは変わりはしないだろう…
湯場選手は日本王座3階級獲得の猛者であり、今この瞬間こそベルトを巻いていないものの、しかし、『チャンピオン』と遜色のない実力者であることは誰の目にも明らかな存在である…
西選手、新田さんがジムを興した時、最初に入門をしてきた選手であるという…
札付きのワルであった高校生当時の西選手、部室でタバコを吸っていた先輩を殴り倒して失望し、中退… 暴走族になった挙句、ヤクザの鞄持ちにまで身を落とす…が、その兄貴分が捕まり、そこから離れてお寿司のデリバリー店でアルバイトをはじめ、なんと16歳で店長に抜擢されるまでの商才を発揮、が、交通事故で右足にボルトを埋め込むほどの大怪我をして、そのリハビリのために…とオープン間際の新田ジムにやってきたそうだ…
また、自動車のパーツデザイナーとしての才能も開花させているそうだ…が、しかし、そのような「豪傑」も、プロボクシングのリングでは苦戦の連続、苦渋と苦悔の渦中で勝ち負けを繰り返していた…が、前の試合で日本王座挑戦も果たした人気ボクサーの激闘王、音田隆夫選手を大番狂わせのKOで破って再起、一躍日本ランクと東洋太平洋ランクを獲得、そして、この大一番を迎えるわけですね…
才能も、キャリアも、実力も、その全てが自分よりも遥か高い場所にある湯場選手、挑めるだけでも光栄…そんな想いもあるであろうが、しかし、西選手もその「生き様」では負けてはいない…
俺の道…を探求し続ける、「漢」の探求者である…
---喰ってやる…!!!
そのような意気込みなくして上がれるリングでは当然あるまい…
1R 西は前傾姿勢から前に前に…と実力者湯場ににじり寄る… 一方の、百戦錬磨のサウスポー湯場、そんな西の動きを確かめながら鋭い右リードを放ちながらこれを軽快に捌く…
湯場のワンツーが早速西の顔面に打ち抜かれる!!!
西、これを喰っても怯む気配はなし、その強烈なる湯場のパンチ力は想定の範囲であったか?あるいはそれ以上であったのか…?
が、いずれにせよ、勝つか負けるか? 打つか打たれるか? それしかないのがボクシングである…
西、チャレンジャーの心意気を全身から溢れさせながら前へ出る…
湯場、そんな西の前進を捌きながら、その西のパンチを鼻先でかわすと笑顔を作る…
こんなことを書いては本当に申し訳ないが、確かに、確かに「格」が違うかもしれない…
湯場の重い左ボディーが炸裂、が、西、怯まず…
湯場優位のつばぜり合いで1Rのゴングが鳴り響いた… 湯場 10-9
2R 湯場の左ボディーショットが西のわき腹に抉りこまれる!!! まだまだ…と言わんばかりに西は攻め込む… ジャブを3連発射しながら湯場を下がらせ、やがてコーナーに追い込むとここぞとばかりにパンチを振るう…が、決定打は生まれない…
僅か3分間相対しただけなのに、西の右目はもう晴れ上がっている… さすがは湯場、強い時は滅法強い、余裕がある時の湯場は鬼神の如き冷静なる強さを発揮するのだ…
が、西のその瞳には退路を断った「漢の決意」が滲んでいる…
ベキッ!!!
長い湯場の右リードが西の顔面を抉る…
---今夜は俺の晴れの舞台、今、俺の目の前にいるこのボクサーを倒せば、俺は、俺という存在に納得できるはず… いや、きっと何かが変わる… 絶対に変えてみせる!!!
何か、そんな西の心の声を僕は聞いていたように思う…
ズバンッ!!!
幾多のKOを産んできた湯場の閃光の如き左が西の顔面を打ち抜いた!!!
西、次の瞬間膝が折れ、マットに座り込んでしまう…
なんという左か…!?
この鋭さ、尋常ではない…
西、立ち上がり、レフェリーによって再開される…
---いいパンチじゃねぇか、が、見てろ、俺はこんなもんじゃまだ沈まないっ!!! お返しにもっと強烈な一発をお見舞いして…
ザクッ!!!
再開してまもなく繰り出された湯場の左ストレートは、無防備に近い西の顔面を完璧なタイミングと角度で貫いた…
西、その一撃で精神と肉体を完全に寸断されてしまった…
レフェリー、意識を失ったであろう西のマウスピースを速やかに取り出す…
2R 2:21 TKO勝利で湯場忠志選手の勝ち!!!
まさに、雷(いかずち)のような、雷鳴の轟きの如きKOパンチ炸裂…であった。
西選手の倒れた姿に場内はどよめく…
担架が運び込まれ、西選手はそれに乗せられた…
大丈夫か!?
と、リングから担架が降ろされた瞬間、不意に、西選手が上体を起こす…
場内に安堵のため息が溢れる…
周囲の人間にまだ寝ていろ…と促されたか?西選手、再び担架にその体を預けた…
---あれ、どうなってんだ? えっ!? 負けたの、俺…!?
と、西選手が思ったのかどうか、僕にはわからない…
が、しかし、結果として『ミスマッチ』と呼ばれてもおかしくない決着となったが、「漢」の生き様を模索し、ついにこのリングに辿り着いた西禄朋というボクサーの勇気が、やけに胸に沁みた…
こんなことを素人のボクシングマニアに書かれては不本意であるかもしれないが、しかし、これ以上ない、素晴らしい倒されっぷりであった…
感動したっ!!!
つまり、相当の勇気と決意がなければこのリングには上がれない…ってことはボクシング好きならばみな知っている…
それほど、湯場忠志というボクサーは特別なボクサーであり、最高に強いのだ…
さて、これでチャーリー太田選手の持つ日本スーパーウェルター級王座への挑戦が確定した湯場選手、さて、一説には打たれ脆さとここ一番での気迫の不充実が懸念されるが、つぼに嵌れば滅法強い、チャーリー選手もあの戦艦の大砲の如き左ストレートをまともに喰ったら立ってはいられないだろう…
が、それは湯場選手にもいえるわけですが、チャーリー選手のメガトンクラスの爆弾の如き一発が命中したらワンパンチで沈むことは必至…
湯場選手の、前人未到の日本王座「4階級制覇」の夢がかかった大一番は、9月に開催されるという…
最後に、昨晩観戦をご一緒していただいたみなさま、どうもありがとうございました…
サッカーワールドカップ『日本×パラグアイ』の興奮は日本全土を席巻していたようでありますが、後楽園ホールで燃え上がった戦士たちの青春の迸りもまた、最高でした…
マニアはマニアの道を進もうではないか…!!!
御愛読感謝
つづく