不意に、いつかの精悍なる凛々しさを思い起こして震える… | ボクシング&ロック野郎 higege91の夜明けはまだか?

ボクシング&ロック野郎 higege91の夜明けはまだか?

人生の曲がり角に遭遇したボクシング&ロック・マニアhigege91。暇を見つけてはホール通い。ああ、俺は戦っているか!? ああ、俺は俺の求める『俺』に近づいているのか!?


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幾多の世界チャンピオンの中でも、抜群のカッコ良さを持っていた大橋秀行さん…


元日本ジュニアフライ級、元WBC世界ストロー級、元WBA世界ストロー級チャンピオン…


大橋さんと言えば、「国内所属選手の連続世界挑戦失敗を21度目で食い止めたボクサー」として有名ですね…


倒れても倒れても不屈の精神力で立ち上がり続けた、いくつもの戦いは今なお、ふいに頭の中で色鮮やかに蘇って参ります…


で、なんでまた、今日は大橋さんなのか…と言われましても、まぁ、すいません、理由は特段ないのですが、ちょっと古いチャンピオン列伝的冊子を見ていたら、この、あまりにも精悍なるかつてのお姿の凛々しき写真に心を奪われてしまったので携帯でパシャリとしてしまった次第であります…


で、いつかの伝説の一戦を再収録…


---目一杯戦って、限界まで戦って、あまりにも潔く散る…


そんな大橋さんの2度目の世界挑戦をいつか録画観戦した観戦記をお届け…


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1988年6月27日 

WBC世界ジュニアフライ級タイトルマッチ 

後楽園ホール


チャンピオン 張正九(韓国) 連続14度防衛中

36戦35勝15KO1敗

×

挑戦者同級7位 大橋秀行

10戦8勝4KO2敗



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当時、「150年に一人のボクサー」と謳われたボクサー、大橋選手の2度目の世界挑戦となり、このタイトルマッチは張への2度目の挑戦でもある…


当時、張は試合前に下唇を怪我してしまい開催も危ぶまれたそうで、また、減量苦とも戦っていて、前日までサウナスーツを身につけたまま練習を行い、また、サウナで強引に汗を流していたそうであった…


一方の挑戦者、大橋選手はこの時より遡ること2年、プロ7戦目で敵地韓国に乗り込んで、この張に挑んでいたわけですが、流石に世界の壁は厚かった、5RTKO負けに屈していて、これが雪辱戦のリングでもある…



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1R 両者右構え、ファイタータイプの張に対して、カウンターパンチャーの大橋はやや距離を保ちながら戦いたい… その立ち上がり、張は前に出て距離を潰しにかかり、接近戦から左右フックを打ち込み、アッパーカットを突き上げた… と、やや大振りの張のフックを空振りさせてそこへ左フックを滑り込ませた大橋、このクリーンヒットに場内が沸く… しかし、張のアグレッシブはかなりの迫力で、大橋は度々ロープを背負わされては張のボディー打ちを浴びる… 手数も張が上回った… 僅差だが、張のラウンドに見えた… 張10-9



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2R 張は上体を大きく動かしながら、脇から、あるいは下から、いや、鋭く真っ直ぐに…と様々な種類のパンチを繰り出しながら距離を潰しにかかる… 大橋、冷静にその張のパンチを見極めながら凌ぐも、手数で劣る… と、張の左ジャブをかわして、そのパンチの戻り際、大橋のコンパクトな右ショートが顎先にめり込んだ!!! 一瞬、怯んだように身体から力が抜けた張!!! が、張は歴戦の雄、韓国の英雄である… その怒りの導火線に火が付いたように猛然と大橋に襲い掛かる… 大橋にロープを背負わせると、頭をつけての接近戦から大きな左右フック、そして、鋭い左ボディーを打ちぬく!!! 大橋、あえて足を止めてこの危険な距離でカウンター合戦に応じる!!! しかし、見栄え的にはロープを背負っているだけに微妙か!? と、体が入れ替わったその刹那、左フックから左アッパー、そして、さらに左フック!!! と張の顔面を立て続けてパンチを射抜いた!!! 全体像のアグレッシブは張であったが、しかし、的確なクリーンヒットは大橋が上回ったか!? 大橋10-9


3R 張は前にもまして積極的に打って出てくる… その間隙を縫って大橋はカウンターを打ち込むも双方決定打を欠く… しかし、前進力、手数でやや流れを有利に進めるのはやはりチャンピオンの張か… と、このR中盤、なんとか張の旺盛なる手数を捌いてきた大橋であったが、右フックを空振りした場面で、その腕を戻す瞬間の打ち終わりを狙われた… 張の右フックが見事に大橋の顎を打ち抜く!!! 


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…ストン!!


挑戦者大橋が尻餅をついた…!!!


カウント内に立ち上がるも、しかし、再開後の張のラッシュに大橋は捕まる!!! 張の右アッパー連打をまともに浴びて大きく腰が曲がり、バランスを失う!!! ここで思わずマットに手をついたか? レフェリーが両者を分けて再びカウントを数え始める…


再開!!!


一気に止めを刺すべく詰めてきた張を、真っ向から迎え撃つ深いダメージを負った挑戦者大橋、足を止めて敢て打ち合う… 逃げようとすれば、逆に捕らわれ、さらなる滅多打ちが待っている… そう、窮地にこそ、もっとも苦しいときにこそ、打って出る!!! 


が、張の連打から決定打の右ストレートを顎先に受けると大橋は3度目のダウン… その膝がマットに落ちてしまった…


しかし、この試合はWBCルールである… フリーノックダウン制、レフェリーが続行に選手が耐えうるか判断し、可能に見えれば何度でも再開する…


大橋はその右瞼をザックリと切り裂かれ、意識もやや虚ろ気味であるが、この苦しい苦しい3Rも残り30秒ほどだ…


踏ん張れ、何とか堪えてくれ!!!


さらに再開!!!


張、これでもかこれでもか!!! …と、大橋をロープに釘付けにすると左右連打で仕留めに掛かる!! 残り20病弱!!!


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しかし、大橋はまだ朽ちてはいなかった…


大振りのチャンピオンの右フックの「隙間」を打ち抜いたのは、すでに3度のダウンを喫していた大橋の右ストレートであった!!!



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張、バランスを崩す… いや、膝から力が抜け落ちてる… ヨロヨロ…とその強靭なるはずの身体が自らの重さに耐えかねている… 血みどろとなった大橋に縋りついた…  あぁ、立っているのがやっとだぁ… 



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残り10秒!!!


大橋が攻める!!! チャンピオンは自陣の赤コーナーを背負って防戦一方!!! 


と、ここでゴング… しかし、ボクシングと言うのは本当に何が起こるか解らない… 驚異的なる挑戦者の意地の一発、右ストレートカウンター… 


さて、これはポイントどうなるんだろう?ってことで、1度のダウンで-2ポイントだから、計3度のダウンがあったから「10-6」か…? しかし、最後の形勢逆転場面、千鳥足になった張はダウンに相当するダメージを負っていたとも判断できるが、しかし、踏ん張ったのでここは張の10-6でいいのかなぁ…? しかし、テレビの実況は「張の10-9」と言っているが、これはやはり大橋の最後の逆転パンチを評価してのことか? 


4R ダウンを3度も喫したものの、勝ち急いだ張にカウンターを見舞った大橋は効いてもいるが、しかし、その頭脳は冷静であるようだ… 逆に、大きなチャンスを作ったものの、しかし、見事なカウンターを浴びた張にはナイフで抉られたようなダメージが残っている… まだ解らない… 4Rは消耗戦の様相を呈してきた… さて、しかし、流石は連続14度防衛中の張、グイグイと前に出てきてはその旺盛な手数で大橋を追い込む、さっきまでのダメージは蓄積こそしているはずだが、これを補ってあまりある精神力は見事!!! だが、大橋も負けてはいない… 張のパンチの間隙を縫って鋭いカウンターを冷静に打ち込んでゆく… 大橋も被弾は免れないものの、しかし、カウンターを喰っているわけではない… 大橋10-9 


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5R 場内に轟く「大橋」コール!!! 張は前に出てくる… このひたすら前へ出てくるのが俗に言う「コリアンファイタースタイル」… 左右フックを振るいながら、不意にアッパーカットを織り交ぜ、そして、ズンズン…と大橋を飲み込もうと前に出てくる… が、大橋はシャープなワンツーを繰り出し、それは絶妙なタイミングでカウンターとなって張の顔面を射抜く… 張、しかし、強引に距離を潰し、大橋そのものを潰しにかかる… 大橋はしかし、しぶとく、忍耐強く、そんな張の顔面にカウンターを狙い撃ち続ける… しかし、チャンピオンは強烈なる右アッパーカットを4連発、5連発…と繰り出し、これを喰った大橋、やや上体が起き上がってしまった… あれ、効いた、効いてる!!! 大橋、ロープを背負って防戦一方に… く、苦しい… しかし、張の執念と耐力も尋常ではない… 張10-9


6R 遡ること2年、大橋にとって初めての世界挑戦、その時もチャンピオンは目の前にいるこの張であった… その時は5Rで倒されてしまった… あの悔しい前戦の不吉なる5Rはついに越えた… このRは両者決定打なし… 互角の10-10


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7R 驚異的な手数で大橋を攻め立てる張… 大橋、この屈強なる偉大なチャンピオンに物怖じすることなく、危険な距離で被弾を辞さないカウンター迎撃を繰り返してきた… そして、そのカウンターは的確にして非常鋭かった… が、チャンピオンのタフネスはそれを凌駕する強靭を備えていた… 大橋は度々カウンターを放ち続けたが、3R最終盤における、「ピンポイントの急所」を射抜くことは出来ずにいた… そして、互角に試合を進めるも、しかし、カウンター迎撃戦法の副作用でもある被弾の蓄積、その負担が徐々にその肉体を冒し始めていたようにも見えた… 中間距離でのワンツーの交換から右ストレートを正面から浴びた大橋… 


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ここで、一間おいてから膝の力が抜け落ちた… マットに手をついてしまった… ダウンだ… 再開!!! 張の猛攻に晒される大橋、ロープを背負い、顔を弾き飛ばされ、鋭い左ボディーに背中が折れ曲がる… 張の左アッパーで跳ね上げられた顔面に、追撃の右ストレートが突き刺さった!!! 大橋、このR2度目のダウン…!!! 再開後、すぐにゴングが鳴った… 張10-7


8R 大橋、意を決したか? このままズルズルと消耗戦に付き合ってはあの張の思う壺… ならば打って出る、どのみちこちらはダメージの塊、後悔しないためには、目一杯打って打って打ちまくってやろうじゃないか…!! 大橋のそんな声が聞こえてくるような立ち上がりであった… それまで迎撃カウンター戦法で構えてきた大橋が、自らゴングと同時に打って出た… カウンターではない、ただ、屈強なるチャンピオンを「ぶちのめす」ためのパンチを振るい続ける!!! その右ストレートが、その左フックが張の顔面に抉り込まれる!!! 張が大橋を抱きかかえる… が、大橋は張の腹にボディーを集め、張、これに悶えるとその抱きかかえた大橋の頭を突き放す… 大橋の攻勢だ!!! …が、張の突進は止まらない!!! 張、執念の右アッパーカット連打!!! 


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大橋の顔面が宙を泳ぐ…


ダウンだ!!!


大橋は立ち上がった・・・


再開!!!


張の追撃が始まった!!! 大橋は渾身の力を込め、奇蹟の逆転に一縷の望みを繋げる大きな左フックを放つ…が、もはやそのパンチにはさほどの力も練り込むことはできなかった…


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張の右アッパーを再び喰うと、大橋はまるで強力な磁石に吸い寄せられた一本の釘か何かのように、力なく背中からマットに吸い寄せられた…


ここでレフェリーが両手を交錯させた…


チャンピオン張正九、8R1:49、TKOで15度連続防衛達成!!!



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大橋、7度目のダウンでついにストップが掛かった…


さて、大橋選手、これほどの闘志と執念を爆発させても世界に届かなかったわけですが、しかし、なんという見事な負けっぷりでありましょうか…?


打たれても打たれても立ち上がるその姿には、本当に大きな感動を覚えました…


さて、再びの世界王座挑戦に失敗するも、この翌年、ついにその時はやって来る…


1990年2月7日、時のWBC世界ストロー級チャンピオン、崔漸煥(韓国)に挑み、9回2分11秒、左ボディブローで沈めてKO勝ち…を果たす。


この当時、日本ボクシング界は世界チャンピオン不在の暗黒時代で、日本国内ジム所属選手の世界挑戦連続失敗記録は21回に達していて、この失敗記録に終止符を打ったわけですが、この時の後楽園ホールの観客の万歳は今や伝説となっていますねぇ…


で、大橋選手を振り返るためにウィキペディアを読んでいたら、面白いエピソードを見つけた…


この雀戦を前にした大橋選手の元に届いた手紙は、かつて2度の激闘を分かち合った張正九さんで、「崔は韓国人だが、二度も死闘を演じた君に勝って欲しい」との手紙を受け取った…なんてありました。


どうですか、感動的ですねぇ…!?


あるんだ、こういうことがぁ…


さて、大橋選手はその後初防衛を成功させるも、2度目の防衛戦で、後のボクシングレジェンド、リカルド・ロペスを挑戦者に迎えて滅多打ちにされて王座陥落…


これも凄い負けっぷりでありました…


しかし、さらに再起して、WBA世界ストロー級チャンピオンの崔煕庸(韓国)に挑み、12回判定勝ちで世界王座返り咲きを果たすわけですが、WBAとWBCの両方のベルトを巻いたわけですね…


この王座ですが、残念ながら初防衛戦で王座陥落してしまい、眼疾も発覚してついに引退…


現在は大橋ジム会長であり、東日本ボクシング協会会長の要職も務めておられ、また、度々後楽園ホールでそのお姿を拝見しますが、かつては48キロ台で戦っておられたのですが、現在は… すみません…


でも、精悍にして鋭く、打ち合いを辞さない大橋選手のボクシングは本当の勇気を与えてくれましたねぇ…


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…ううむ、大橋さんの世界タイトルマッチは、本当に、ボクシングってプロスポーツがこれだけ限界ギリギリのところで戦っているんだ…っていう標本みたいなところありますよね?


しかし、かつての精悍なる凛々しさは特別な美しさがありましたねぇ…


っと、今はちょっとお太りになられてまるが、それはそれで、非常に温和な印象で素晴らしいと思います…


御愛読感謝


つづく