ノンフィクション「拳の漂流」再読を終えて… | ボクシング&ロック野郎 higege91の夜明けはまだか?

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人生の曲がり角に遭遇したボクシング&ロック・マニアhigege91。暇を見つけてはホール通い。ああ、俺は戦っているか!? ああ、俺は俺の求める『俺』に近づいているのか!?

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戦前にフィリピンから来日し、戦後、初代日本フェザー級チャンピオンとなった流浪の天才ボクサー、ベビー・ゴステロを扱ったノンフィクション作品…


拳の漂流―「神様」と呼ばれた男ベビー・ゴステロの生涯/城島 充
¥1,995
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109戦79勝17KO19敗14分5ND(5EX)…


時代と戦争に翻弄された天才ボクサーのゴステロは、時のスースター、ピストン堀口さんや笹崎 僙さんと幾度も戦い、それらの死闘は国家的レベルで盛り上がるほどの名勝負であったと言う…


さて、今となっては活字伝聞でしかその「天才的技巧」には触れることができないわけでありますが、このノンフィクションは数あるボクサー&ボクシング関連伝記類の中でも群を抜いて感動的であります…


実は、ここ数日の間で読み直していたのですが、筆者である城島さんの「姿勢」に改めて震える想いを感じたわけであります…


つまり、我々は人それぞれに興味が沸いたり、意識が奪われたりする事象や人物が存在しているわけでありますが、ただ漠然と「好き」で終わらせないために、その「理由」と「意味」を追求した、その紛れもなき「軌跡」が、この本のテーマの一端であるわけですね…


もちろん、戦中・戦後に大活躍した、「神」と呼ばれたほどの異国のボクサーの栄光と、孤独な末路と死とは非常に興味深いテーマであるわけでありますが、その一方で、飽くなき探究心を奮い立たせ、取材と事実の検証を重ねながら、その「神」の実像へ迫ろうとする『行為』の過酷と、筆者である城島さんの背負った苦痛と混沌の姿こそが、ある意味、「神」の実像以上に僕の胸に迫ってくわけであります…


ボクサーの戦いとは、対戦相手はもちろんのこと、それ以上の強敵とは、自分自身との戦いである…とは度々出てくる表現ではありますが、さまざまなノンフィクションがありますが、特に、この「拳の漂流」における筆者である城島さんの「葛藤」との戦いの切迫感は、これもまたスポーツにおける「自分自身との戦い」と非常に近しいものを感じたわけであります…


ある事象や人物に関して、我々は、好き…とか、興味がわいた…で、ついついそこを着地点としてしまいがちでありまして、では、「なぜゆえにすきなのか?」「なぜゆえに興味が沸いているのか?」って事実を軽んじてしまっているとは思いませんか…?


つまり、その「なぜ」の先こそが実は茨の道の始まり、「哲学」の出発点であることを我々は知りながら、しかし、その苦悩の道を敢えて進むことを狡猾にとぼける術を身につけてしまっているわけであります…


人生を捧げる…とは大げさでありますが、しかし、人生の一部を真っ向から捧げる決意と行為なくして、このようなノンフィクションの誕生はない…と思うわけであります


大阪の街で暮らし続けたベビー・ゴステロの悲哀に、「なぜ」、筆者の城島さんが人生の一部を捧げたのか、それは是非みなさまご自身で活字を通じて汲み取っていただきたいと思いますが、僕はこのノンフィクションを通じて、「好き」と「探求」の絶対的なる違いを改めて痛感させていただき、大変感謝しているわけであります…


僕もボクサーたちが大好きでありますので、城島さんの取り組みには大変共感するところが大きいです…


そして、ボクサーたちの青春を賭した「命懸け」を通じて、そこに何か見つけたい…と切に願って止まないので観戦を続けているわけでありますが、しかし、やはり、ただ「好き」の領域を超えられないなぁ…と、常に閉塞感を感じているわけです…


さて、僕の仕事は映画やドラマの製作・予算管理をフリーランスで請け負う…という特殊なる内容でありますが、しかし、俗に言う「ものづくり」の先端にあってもなお、それはあくまで芸術性の追求が最大のテーマであるはずもなく、それらは紛うことなき「商品」であるため、打算と妥協の産物と言う側面を免れないし、また、天候一つで表現方法の変更を迫られるほどの脆さを秘めてもいるわけであります…


果たして、このままでいいのか…? とは、常に考えながらも、しかし、食べていかねばなりませんし、また、僕はそれを良しとして「青春」を賭し、その作業の方法論と発想法を身につけたわけでありますので、軽々には否定することも出来ません…


もっとも、なるべく好きな作品を選んでも、そうなるのだから、実は、初めから僕の「居場所」などないのかもしれない…とは感づいてもいるわけですね


このノンフィクション作品をお書きになった城島さんでありますが、元々は産経新聞の記者さんであったそうですが、この作品に取り組む前にお辞めになったそうで、そのあたりの心の葛藤も作品に登場しますが、このあたり、なんとも身につまされる想いであります…


生活やこれまでの全てを投げ打つ覚悟で、身も心も、ど正面から向き合うことの困難と壮絶…


以前、ちょっと取り上げただけで、ちゃんと感想を書いてなかったので書かせていただきました…


ボクシングが好きな方に限らず、お勧めでありますね…


御愛読感謝


つづく