天才ボクサー辰吉丈一郎の、恋の断片…  | ボクシング&ロック野郎 higege91の夜明けはまだか?

ボクシング&ロック野郎 higege91の夜明けはまだか?

人生の曲がり角に遭遇したボクシング&ロック・マニアhigege91。暇を見つけてはホール通い。ああ、俺は戦っているか!? ああ、俺は俺の求める『俺』に近づいているのか!?

ボクシング&ロック野郎    higege91の夜明けはまだか?-120722_124939.jpg


もう何度も読み返している一冊…


「敗れてもなお」 -感情的ボクシング論- 佐瀬稔著 世界文化社刊


これを読みながら、スポーツクラブでバイクをこいでおりましたら、3度もWBC世界バンタム級タイトルを獲得した名チャンピオン、「浪速のジョー」こと、辰吉丈一郎さんに触れた一節に、いつかの、若かりし、いや、初々し過ぎるほどの、甘く切ない頃の辰吉さんの「恋」に触れたる一節を見つけまして、これを読んで、僕は思わず魂が揺れた…と申しますか、何か、ぐいと心を握られたと申しますか、そんな感触を得たのでございます…


そこで、ちょっと、その一部を抜粋させていただき、その淡く切ない、天才と呼ばれたボクサーの「恋」の断片をみなさまと分かち合わせていただければ、と思います…


以下、「敗れてもなお」 -拝啓 辰吉丈一郎 様 より 抜粋


辰吉丈一郎に初めて会ったのは、プロデビューして間もないころ、大阪帝拳ジム前の喫茶店でだった。一時間ほど話して、この少年のなみなみならぬ頭の良さに衝撃に近い印象を得たものだが、向かいのジムに行くため、歩道のはしでくるまが走り過ぎるのを待っていたとき、息子ほど年齢の違う少年が突然肩を寄せてきて言った。


「ボクサーには女は禁物や、といいますね」

「そうですね」

「でも、その女がボクシングやる励みになるんなら、話しは別とちがいますか?」

「もちろんそうですよ。すばらしいことじゃないですか」

「年上の女でも、ですか」

「当たり前だ。年なんか関係ないでしょう」


少年はククッと笑い、道を渡りながら「ほんま、そない思いますか。ほんまでっか」と肩を何度も何度もぶつけてきた。恋をしていた少年の、あの肩の温かさがいまだに肌の記憶となって残っている。のち、二人は結婚し、長男・寿希也を得た。



…さて、これ、いかがですか?


後に日本中を熱狂の渦に巻き込むほどの世界チャンピオンになる、若き天才ボクサーの、甘い恋の断片…


プロデビュー間もないころ…と言っても、辰吉さんの場合は特別でありまして、御存知のとおり、プロデビュー僅か4戦目で時の日本チャンピオンであった岡部さんを倒していますから、その風体のイメージとしては、腕をグルグル回して相手を威嚇していたあの頃の、辰吉さんがもっともソリッドで輝いていた時期…のイメージでいいのではないでしょうかね…


車の往来が途切れるのを待ちながら、佐瀬さんの肩に自分の肩をぶつけながら、どうしても心に閉じ込めきれない、爆発しそうな「恋心」を、思わずあらわにしてしまった、天才ボクサーの純情…


そして、いまなお、ストイックに行き続ける辰吉さんの姿を想うに、なんとも言えぬ、言葉にならぬ気持ちが沸いてまいります…


敗れてもなお… 敗れてもなお… 敗れても、なお…


この一冊に登場する辰吉さんの姿でありますが、WBC世界バンタム級王座統一戦、薬師寺戦で敗北を喫するまでを追っていますが、その伝説的一戦の敗戦から、ボクシングファンが、いや、日本中が度肝を抜かれたシリモンコン戦における奇跡の左ボディーブロー炸裂によって世界チャンピオン復帰を果たすという、辰吉さんの壮大なるドラマの続きがまだ残されていようとは、この時点では、さすがの佐瀬さんも想像もできなかったでしょうねぇ…


僅かこれだけの文章で、何か、物凄く胸に迫ってきますねぇ…


日本を席巻した、天才ボクサーの、「恋」のおすそ分けでありました…


御愛読感謝


つづく